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Channel: 水彩画と俳句の世界
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三月号の詩(衣被)

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             湖北秋暁 30号水彩

      衣被(きぬかつぎ)

 無患子の降る川の辺に夕陽落つ  惟之

 親芋を提げて重たき日暮れかな

 衣被剥きて八十路の朝かな

 銀杏散る瀬田の唐橋比良比叡

 ぴかぴかに薬缶を磨き冬に入る

      誌上句会 兼題「冬霧」

 特選

 開かれし仏のまなこ冬の霧  博女

  仏像に目を入れると魂が通う。冬霧に仏の眼差しが暖かい。

 護摩僧の数珠八方や冬の霧  三枝子

  冬霧の中真言を唱え仏の加護を願う。数珠八方が巧み。

 一命を奪ひ冬霧黙しけり  治子

  「冬黙し」が悲しみ募らせる。胸を打つ巧みな表現。

 ムーミンの出さうな木立冬の霧  洋子

  ムーミンは暗いとこがろが好き。霧の中なら覗いている。

 北天の冬霧の中牛を飼ふ  泰山

  北国の冬霧の中、牛への愛情が伝わる。

 冬霧やまたひとり友ゐなくなる  東音

  人生の寂しさを冬霧が包む。

 冬霧に更なる霧の生まれけり  美智子

  平明な表現で霧の動きを捉えている。

 秀作

 錫杖の音冬霧の中を行く  廣平

  遠ざかる錫杖の音を冬霧が包む。僧の読経もかすかに。

 冬霧や風に押されれて波止場まで  智代

  風に押されたのは霧それとも作者なのか。

 冬霧のはれて車窓に近江富士  洋子

  三上山は近江富士と呼ばれる。冬霧が晴れ歓声が聞こえる。

 この奥に女人堂跡冬の霧  藤子

  女人禁制が解かれるまで女人堂。今は霧が立ち込めるばかり。

 冬霧や奥吉備の軒皆低し  みどり

  石州瓦と弁柄格子の吹屋あたり冬霧に包まれた軒が懐かしい。

 熊野路の山の幾重や冬の霧  靖子

  神々が住む熊野。山の幾重が冬霧の深さを思わせる。

 冬霧の向かう奥多摩青白く  啓子

  奥多摩の神秘がうかがえる一瞬の情景。

 対岸ににじむ灯や冬の霧  鈴子

  ほほのかな灯りに安堵感が感じとれる。

 冬霧の晴れ通学のフェリーかな  知恵子

  離島の学校であろうか、霧が晴れると青い海。

 わたくしの深き吐息か冬の霧  博光

  吐息と冬霧がわたくしと通い合う。

 冬の霧やがて朝日の登りくる  紀久子

  朝日と共に希望も現れる。

 水の神祀る貯水池  三郎

  水の神は女性神と思われる。冬霧と水の神が響き合う。

 冬霧の中を落ち合う大河かな  清次

  落ち合うのは本流と支流。

 冬霧に灯りまたたく千光寺  京子

  魔除けの祈願が心に灯りをともす。

     やまびこ(一月号作品から)感銘・共鳴ーー私の好きな一句

  人愛しひとに愛され秋深む  道子

  くつきりと雲寄せ付けず今日の月  治子

  玉入れの玉は赤白天高し  優子

  句を学ぶ一人ひとりの良夜かな  爽風

  猫の目と出あふ抜け道星月夜  布美子

  同年の患者親しき秋の窓  浅子

  名月を追い駆けて行く列車かな  敬子

  秋思ふと来し方長く短くで  杏子

  あるがまま向き合う余生草の花  靖子

  身に入むや父の残せる農日記  鈴枝

  伍長の碑蝉が一匹泣いてゐる  怜

  縄文の土偶の踊る星月夜  憲勝

  ルビーの歯見せて石榴の高笑ひ  廣平

  秋風に松を残して庭師去ぬ  倫子 

    俳誌嵯峨野 三月号(通巻620号)より  

 

 

 


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