蹴上の桜(京都) 六号 水彩
志賀の大仏
湖へ向く北向き地蔵冬日差す 惟之
冬晴や京への山路道祖神
微笑の志賀の大仏冬ぬくし
山中の崇福寺跡紅葉散る
大空へ杵たかだかと餅を搗く
誌上句会 兼題「寒卵」
特選
寒卵茹でて庭師の一服へ 洋子
父帰還は祖父の祈りや寒卵 三郎
いつしかに向き合ふ予後や寒卵 藤子
癒ゆる人の粥に添ふ色寒卵 博女
母の荷のお米に埋もれ寒卵 知恵子
秀作
湯治場の笊に五六個寒卵 文夫
恢復へと真心からの寒卵 陽子
寒卵の黄身に命の張りの濃し 三枝子
退院の母の白粥寒卵 咲久子
つひの間に八十路も遠く寒卵 佳子
幸せのオムレツ青き寒卵 恵子
弟妹の揃って割りぬ寒卵 紀久子
足湯することも日課や寒卵 靖子
誕生日にと割れず着く寒卵 啓子
寒卵いとしと思ふこはれるな 万智子
親に子につつがなき日を寒卵 美智子
奇想など得むと夜に割る寒卵 秀穂
寒卵思案に借りる老いの知恵 珠子
もう八十だ八十や寒卵 篤子
コツと割り今日の始まる寒卵 洋子
輪島箸にとろろ混ぜゆく寒卵 加代子
鳥小屋へこはごはそっと寒卵 久代
戦時下の母の割りたる寒卵 秀子
前掛けに被ふ見舞ひの寒卵 まこと
思ひ切り投げてみたきや寒卵 廣平
入選
寒卵トンガに火山噴火の日 稔
高高と明けの鶏鳴寒卵 惟之
あけぼぼの明りに透かし寒卵 翠
塗椀にとろり透けゆく寒卵 洋子
寒卵ぽろりと放し飼ふ畑に みどり
きのうけふ僧侶のすする寒卵 克彦
籾殻に迷つて選ぶ寒卵 鈴子
皿に盛る下宿の朝の寒卵 富治
卓上をころがる音や寒卵 信儀
籠りたる親の情愛寒卵 捨弘
寒卵割りたる妻や子と吾に 和男
寒卵昼餉に一つおとなりへ 祐枝女
中流の生活ありがた寒卵 美代子
なつかしや母の情けの寒卵 静風
滋養てふ言葉懐かし寒卵 治子
体重の減りゆく我や寒卵 敏子
やまびこ(二月号作品から)感銘・共鳴ーー私の好きな一句
十三夜日本一の妻は亡く 爽見
コスモスの風や畝傍へ香久山へ 洋子
煙なき暮らしに慣れてさんま焼く アイ子
小鳥来て賑やかになる一軒家 和子
話また昭和へもどる温め酒 鈴枝
妻のこゑまたきこえくる夜長かな 爽見
野路菊や道なつかしく母の里 洋子
茶の花や卒寿を越えて見ゆるもと 梅子
後継ぎのなき田や終の落し水 勢津子
穭田の轍にひかるよべの雨 通幸
繰り返すピアノの曲や萩の雨 みどり
ただいまと呟き秋を灯しけり 布美子
まあええかそれも我なり烏瓜 小鈴
さび鮎や峡にせり出す発電所 明子
いつしかに支え合ふ身やとろろ汁 和男
セーターの一目一目は母の息 悦正
俳誌嵯峨野 四月号(通巻第609号)より