雛人形の五人囃子の鼓と小太鼓
無患子
初生りの小さき檸檬香を放つ 惟之
無患子の降る川の辺を子等とゆく
献立にシェフの朱印や秋夕焼
山道を埋め尽くして朴落葉
大銀杏光を放ち散り急ぐ
誌上句会 兼題「去年今年」
特選
一編の詩が拠り所去年今年 捨弘
星星の海へ消えゆく去年今年 富治
棟梁の遺訓継ぐ子や去年今年 三枝子
学ぶ仲間学べるなかま去年今年 珠子
戦なき平和寿ぎ去年今年 紀久子
秀作
井戸水を汲んで目出度き去年今年 まこと
山一つ越えて健やか去年今年 佳子
去年今年眉目の語る納め句座 泰山
去年今年楽しく生きて今仕上げ 胡蝶
ポケットに残る一円去年今年 篤子
去年今年年男の座譲りたり 文夫
シルバーの務めを杖に去年今年 稔
世の闇を祓ひてゆくや去年今年 博女
去年今年佳き事さがし指を折る 万智子
浄暗の篝火明かし去年今年 恵子
長らへて申し分なき去年今年 みどり
去年今年俳句ノートの一冊目 治子
読み返す寂聴源氏去年今年 知恵子
朝な夕な歳時記を繰り去年今年 咲久子
何気なき日日大切に去年今年 洋子
入選
八十路への扉を敲く去年今年 惟之
叡山の法灯不滅去年今年 ともはる
篝火の火の粉零るる去年今年 信義
去年今年変わらぬ友の心かな 静風
こだはらぬこそ自由なり去年今年 鈴子
寂聴尼の説法聞こゆ去年今年 秀輔
余生なほ幸せ思ふ去年今年 テル
祠あらば手合わす習ひ去年今年 翠
去年今年雑務に追はれ余生なほ 祐枝女
読みさしへ挟む栞や去年今年 洋子
縁ありて集ふ仲間や去年今年 三郎
平凡な暮らし楽しむ去年今年 克彦
人生は片道切符去年今年 廣平
何事も時が解決去年今年 敏子
解決の糸口見えぬ去年今年 美代子
やまびこ(一月号作品から)感銘・共鳴ーー私の好きな一句
四五軒の里を彼方に蕎麦の花 治子
露けしやとにもかくにも米寿越え 爽見
ひぐらしや若狭へ続く十八里 そよ女
友の訃や思い出畳む秋扇 千恵子
大壺に挿して風湧く花芒 和子
山宿の名月掬ふ露天風呂 三枝子
清貧は父の生きざま星流る 怜
秋澄むや使ふことなき旅鞄 近子
蜻蛉追ふ子らに大きな空のあり 近子
行く雲の果ては海あり稲を刈る みどり
月の舟別れも告げず漕ぎゆきぬ 洋子
灯火親しむ古書に残れる蔵書印 利里子
八月は追憶の月重き月 邦弘
老ひとまた違ふ淋しさ秋夕焼 静風
コスモスの色を揺らして風の手話 廣平
朝顔や錆びたポンプの残る町 彩子
俳誌嵯峨野 三月号(通巻第608号)より