酒蔵と十石舟(京都・宇治) 6号 水彩
牡丹の芽
氷原や砂蟕長長と国境へ 惟之
逞しく土突き上げて牡丹の芽
暁や魞挿す舟に影ふたつ
春寒し母の憂ひに大泣く子
入学を揃うて祝ふ孫三人
誌上句会 兼題「東風」
特選
東風に乗り仏師のみ魂下り来る 博女
眠る児のくるみ引き上げ桜東風 美樹
朝東風や海へとつづく町が好き 京子
桜東風休校続く小学校 保子
秀句
桜東風石山寺の川そよぎ 惟之
垂り尾の光る神鶏桜東風 珠子
朝東風を道連れにしてペダル踏む 惠子
夕東風や連絡船は沖を差し みどり
朝東風や嘶く都井の野生馬 克彦
強東風や農機具手入れの老いの黙 和男
朝東風や孫の運転頼もしき 佳子
梅東風や托鉢僧の帰る寺 勝彦
荒東風や岩礁に立つ日蓮像 研二
梅東風の丘に展ける相模湾 美智子
東風よ吹け太宰府めざし今日も吹け 万智子
強東風の波や初鳥踏ん張りぬ 啓子
強東風や敗者の涙美しき まこと
朝東風や火入れの窯に清酒添へ 胡蝶
強東風や目に浮く父の頬かぶり 靜風
朝東風や沖に巨船の銀の影 翠
吉野山の一目千本桜東風 初枝
夕東風や金星凛と瞬きぬ 章代
半身の馬の絶筆桜東風 秀穂
強東風やセット仕立のみだれ髪 テル
やまびこ(四月号作品から)私の好きな一句
振り向かず応へてゐたり紙漉女 爽風
浮かび出る駄句を沈めて冬至風呂 布美子
湯豆腐や裏は怒涛の日本海 基雲
句を記す薬袋や冬のバス 睦美
耳元を音なく過る雪蛍 志津
幸せな母の横顔毛糸編む 鈴枝
布団干す心に母の来てゐたり 勝彦
わが町の川の流れも十二月 勝彦
誰彼の励まし嬉し実万両 道子
緒の緩き宿下駄鳴りぬ寒夜かな 素岳
妹山よ背山よ眠れわが在も 憲勝
山茶花や角を曲がればカレーの香 裕司
俳誌 嵯峨野 六月号(第587号)より