夏霞
叡山へ秦山木の花捧ぐ 惟之
本堂の色濃き影や新樹光
丈六の阿弥陀座像や苔の花
鮨押して島に眠れる樽いくつ
比良比叡鈴鹿山系夏霞
誌上句会 兼題「胡瓜」
特選
足元は白川廃寺胡瓜生る 胡蝶
被災地に残る胡瓜の太りけり 里子
球児らに届く百本冷胡瓜 奈緒世
疎開つ子でありし思い出花胡瓜 弘子
ままごとのやうな昼餉や胡瓜もみ 近子
秀作
胡瓜畑去年は百歳媼居り ひさ子
育ち過ぎ胡瓜も添へて旅土産 洋子
若者の背丈をきそふ胡瓜畑 博女
一本目の冷し胡瓜や貴船川 京子
胡瓜もむ当たりさはりのなき話 篤子
胡瓜もみもふ教はれぬ酢の加減 靜風
朝市や婆の薦めへぼ胡瓜 基雲
初胡瓜男独りの冷し汁 幹男
亡き人のレシピの文字や胡瓜漬 珠子
丸かじりの胡瓜に味噌や山の昼 山女魚
菜園を褒めていただく胡瓜かな 靖子
胡瓜もみ母の味にはまだ速し 紀久子
葉隠れに見逃し胡瓜太くなり 美枝
花の後早くも胡瓜の曲がり癖 まこと
初捥ぎの胡瓜甘しと妻の讃 惟之
冷胡瓜かじり踊りの輪を遠見 惠子
不器用な胡瓜も笊に小商い 研一
まな板にタップダンスの胡瓜かな 須美子
自販機に選る花付きの胡瓜かな 啓子
風軽し若き胡瓜に残る花 臬子
やまびこ(八月号の作品から)感銘・共鳴ーー私の好きな一句から
これまでもこれからも過疎春の村 隆を
ふらここを漕ぐや心の晴れるまで 素岳
暮れなずむ空を広げて花水木 久子
廃線に駅名いまだ花は葉に 篤子
竹林は風梳き分けて初音かな 裕司
城門が校門つつじ咲揃ふ 満子
参道に僧一列や松の芯 定慧
遠ざかる人の香残り春愁 優江
医師の手の肩にやさしき花の雨 鈴枝
今年また燕の育つ理髪店 恭子
先代の名前を貰ふ子猫かな 素岳
なによりも句座は薬よ桜餅 通幸
激流に先陣競ふ燕かな 仙命
茎立や孫の下宿は最上階 秀子
母の手をそっと放して卒業す 美幸
囀の中にさえずりはじまれり 久子
亀鳴くや婆さんどちの艶話 庄知
がん消えて動機しづみし新樹光 敏乃
声かけて通る人ありミモザ咲く 京子
岸壁の割れ目に一輪すみれ咲く 惟之
焼き立てのパンのお出まし春日向 惟之
午後のバス出でて蒲公英の土手となる 耕
俳誌 嵯峨野 十月号(通巻第567号)より