幻の城
二月や輪島の駒の棋王戦 惟之
船の出ぬ輪島の海女や春遠し
朧夜や烏帽子の出づる屋敷墓
肺活量使い果たして春歌ふ
幻の城の遺構や春の泥
誌上句会 兼題「若緑」
特選
風あれば風を諾ふ若緑 三枝子
沖を行く白き客船若緑 洋子
慟哭も呑んでフクシマ若緑 謙治
若緑に対ひて色をととのふる 稔
若緑くずれ砦の石の寂 廣平
方丈の留守を預る若緑 幹男
松の芯一尺伸びて雨上がる 惟之
何となく庭師喜ぶ若緑 悦子
格子戸の連なる町や若緑 由紀子
入選
若緑芝生に足裏つつかれて 万智子
蒼天へ飛び立つさまに松の芯 まこと
緑立つ国境沿いの検問所 光央
少年の挫折乗り越え若緑 つとむ
自分史に重き色なり若緑 征子
平凡のかくも長寿や若緑 珠子
参道の長き並木や若緑 祐枝女
産土は今も変わらじ若緑 泰山
老松に並び立つなり若緑 秀子
若緑日ごとに変わる児のしぐさ 靖子
浜風に吹かれ通しの若緑 靜風
開け放つ本陣跡や松の芯 藤子
少年の口元硬し若緑 洋子
いささかの曖昧も無き若緑 秀輔
山門の良き枝ぶりの若緑 三郎
声明の流る古刹若緑 鈴子
少年の口の尖りや若緑 文夫
やはらかき日に膨らみて若緑 信義
若緑明日へ繋がる今日があり ふみ女
ストックを両手に山へ若緑 歌蓮
それなりに盆栽の若緑 美代子
大波のくづれ磯馴れの若緑 東音
窓を開け目薬をさし若緑 みどり
緑立つ備前鳥城の壁の黒 選者
やまびこ(五月号作品から)感銘・照明 私の好きな一句
冬萌の里に瀬音の遠くより 東音
みな老いを楽しんでゐる賀状かな 勝彦
竜の玉まだ捨てきれぬ志 勝彦
余生とは言はず言さす雑煮の座 爽見
卒寿てふ花道もあり屠蘇祝ふ 爽見
出直しの覚悟にも似て枯木立 珠子
にこにこと耳うちする子お年玉 利里子
地震ありて一気に乱すお正月 廣平
満天の星きしきしと底冷えす 廣平
新しい自分に出合ふ初日記 ひさ女
北に行き北しか知らぬ雪はねぬ 泰山
俳誌嵯峨野 七月号(通巻第636号)より