懐かしい林檎たち 6号 水彩
こぼれ萩
穏やかに上る八十路やこぼれ萩 惟之
秋天へ祈る平和や慈母観音
秋寒や一億円の束重し
秋の宵ラクビ―を見てバレー見て
十歳の孫が三人秋うらら
誌上句会 兼題「浮寝鳥」
特選
クレーン車伸びゆく中洲浮寝鳥 洋子
浮寝鳥はやくも一陣来て睦む 靖子
長旅を終へて浮寝の鳥の群れ 安惠
心置きなく浮寝鳥数へをり 東音
さざ波の揺れにまかせて浮寝鳥 三枝子
秀作
山迫る余呉の湖浮寝鳥 清次
小魚を追ひし辺りや浮寝鳥 治子
ただ一羽湖岸離るる浮寝鳥 翠
浮寝鳥それぞれそっぽむいてをり 文夫
群れゐても一羽一羽の浮寝鳥 廣平
子守唄漏るる病窓浮寝鳥 謙治
浮寝鳥淵に夕闇迫りけり 洋子
浮寝鳥寄り来てやすむ浮寝鳥 博女
湖の波に抱かれ浮寝鳥 鈴子
ありなしの風にも揺れて浮寝鳥 賀代
大池の一隅占めて浮寝鳥 佑枝女
晩節の吾に等しき浮寝鳥 珠子
暮れなずむ堰に群れゐる浮寝鳥 惟之
陣形を変へ浮寝鳥風任せ まこと
神の池はなれて四五羽浮寝鳥 紀久子
内堀の夕日ゆるるや浮寝鳥 敏子
入選
櫓の揺れに合わせ舟漕ぐ浮寝鳥 光夫
漂いて夢の最中浮寝鳥 泰山
目つむりて遠き過去追ふ浮寝鳥 みどり
薄日さす都会の川の浮寝鳥 幹男
浮寝鳥静謐の世を願ふかに 秀輔
星こぼる湖のしじまや浮寝鳥 秀子
余生にも波風ありて浮寝鳥 靜風
浮寝鳥久美浜湾てふ里の浦 稔
身軽さを羨ましとも浮寝鳥 美代子
夕光に向きさだまらぬ浮寝鳥 藤子
母恋し夕日の湖の浮寝鳥 三郎
浮寝鳥写生の我もまどろみぬ 啓子
浮寝鳥の影やまたたく夕の星 信義
東雲や尾羽振りをる浮寝鳥 博光
やまびこ(十二月号作品から)感銘・共鳴ーー私の好きな一句から
武蔵野にふくらむ入日橋涼み 東音
走馬灯みんな回ってみんな影 利里子
さらさらと風の文字生む稲田かな 廣平
昼寝覚水のやうなる夢のあと 梅子
蚊帳に入る作法うるさき母なりき 方城
初秋の波に漂うごと二度寝 洋子
西瓜切る十の瞳にみつめられ そよ女
まつさらの風と山会ひぬ今朝の秋 耕
原爆忌心ひとつの一分間 小鈴
俳誌嵯峨野 二月号(通巻631号)より