滋賀県立図書館 F6 水彩
大津絵
流鏑馬や近江神宮風走る 惟之
初夏や夕陽の落つる厳島
初夏や出町ふたばに列なして
川の辺にパン屋オープン沙羅の花
大津絵の鬼も傘持つ梅雨入かな
誌上句会 兼題「土用干」
特選
土用干床の茶掛けに一礼す 安恵
思い出の楽譜あれこれ虫払 靖子
風入る被爆者名簿土用干 藤子
師の本の赤丸あまたお風入れ 珠子
戦災を免れし軸土用干 つとむ
風入れの父の句集の匂ひかな 文夫
秀作
土用干の天井絵へと風流る 秀輔
土用干ザックと並ぶ旅鞄 洋子
その中に小さき礼服土用干 美代子
手際よき祖母の姿よ土用干 鈴子
青春の匂ひただよふ曝書かな 敏子
黒靴を黒きスーツを土用干 清次
川風を入れ菩提寺の土用干 東音
土用干喜怒の渦巻く文の束 謙治
若き日の大河小説土用干 信義
ふとよぎる母の匂ひや土用干 みどり
風入れのインクの染みる背広かな 京子
入選
三尺の物差し動員土用干 啓子
失恋の手紙しみじみ土用干 泰山
畳紙に父の筆あと土用干 靜風
土用干これは大事な父の本 賀代
風入れは慣れと父は手伝ひに 稔
姉の写真若きままなり土用干 紀久子
虫干や我が青春の黄ばむまま まこと
我が心虫干しせんと胸ひらく 惟之
亡き父の褪せし書き込み土用干 秀子
まだ籠る我が心身の土用干 翠
土用干威儀を正して茶を喫す 三枝子
土用干母の形見のっ古下着 博女
部屋渡る風のうれしき土用干 洋子
土用干短き児の世広げをり 廣平
やまびこ(八月号作品から)感銘・共鳴ーー私の好きな一句
春風もまぜて畑のにぎり飯 喜美恵
亀鳴くや親より永く生きてをり 紀久子
山笑ふ野仏の手に五円玉 京子
哲学の道はこべらの安らけし 優江
亡き妻の香のふとよぎる暮春かな 爽見
山山にものの芽盛り国動く 方城
笑むやうに目鼻いれたし春の月 良精
朝市の竹の子縄にくくられて 節子
洗われて海の疵もつ桜貝 まこと
桜しべ降るや千回目の素振り 文香
水底の村の歴史を知る桜 彩子
俳誌嵯峨野 十月号(通巻第637号)より