赤いドック’(家島)水彩 40号
朧月
朧月作者不明のいろは歌 惟之
朝ドラに映りし孫や花水木
鐘楼へ一尺伸びて松の芯
藷植ゑて夢膨らます八十路かな
薫風や朱の橋渡りあぶり餅
誌上句会 兼題「蟻」
特選
蟻の列シルクロードへ続きをり 美代子
一匹の蟻出て蟻の道となる 清次
蟻踏みし子を叱りたる日の憂ひ 治子
良く晴れて蟻の入り来る野点席 安惠
札所道しばらく蟻に続きけり 東音
蟻よ蟻おれの午睡を妨ぐな 博光
秀作
蟻つぶし極悪人を自認せり 廣平
一瞬の迷ひ蟻にも在るらしき 洋子
一匹の大蟻走る会議室 珠子
いづくより来しか蟻んこ文机に 靖子
蔵屋敷土塀に圧して蟻の穴 みどり
次次と蟻現れる部屋の隅 鈴子
道すがら芭蕉の句碑あり蟻の道 惟之
花に水あげて黒蟻流れゆく 文夫
列逸れて呼ばれし如く蟻走る 和男
昆虫の亡骸かかげ蟻の列 信義
木漏れ日の寺門くぐる蟻の列 翠
蟻逢うて挨拶かはし右左 つとむ
入選
蟻の声聞かんと這へど無言かな 秀穂
日に背を向けて弁当に大蟻来 啓子
蟻の道乱す一掘土匂ふ 靜風
拡大鏡持ちて捜すや蟻の道 博女
隠元豆の花の虜よ今朝の蟻 稔
パン屑を担ぐ黒蟻夕日影 藤子
澄んでゐる者みあたらぬ蟻の道 まこと
放牧期近し山蟻柵昇る 篤子
山蟻の何処が先やら後ろやら 紀久子
蟻往き来き何を伝へて何を聞き 三枝子
玄関の前で遠慮の蟻二匹 謙治
現生や蟻がひきずる己が影 泰山
列はずれ二匹の蟻の迷ひけり 敏子
為政者よ蟻一匹の声いかん 秀子
朝日さす庭の飛石蟻走る 洋子
蟻と蟻出会ひて挨拶列乱れ 祐枝女
やまびこ(七月号作品から)感銘・共鳴ーー私の好きな一句
黒髪をゴムで束ねて卒業す 優江
紙風船言えぬ言葉を吹き入れて 優江
蛙鳴く私の妻を呼ぶ如く 海男
老人と老犬と春眠し 隆を
マフラーの中なら好きと言へるのに 方城
母逝きし後のしづけさ春の雨 鈴子
春愁やおもての我とうらのわれ 爽見
美しき四万十川や上り鮎 海男
成すことの在りて幸せ豆の花 梅子
わが名ある植樹の桜十二歳 博女
未だ持てる冥土の土産春の旅 方城
池の面の風が舵とる花筏 みどり
和菓子屋に新作春兆す 邦弘
それぞれに唱和語るや春炬燵 正弘
ここからは神の域なり梅真白 真弓
沓の音夜気に響かせ修二会かな 定慧
おくれ毛に手をやる舞妓初桜 彩子
俳誌嵯峨野 九月号(通巻626号)より