二年坂
雁渡る
初紅葉叡山へ発つケーブルカー 惟之
古希と喜寿二人で祝ふ茸飯
蝉丸の面は物憂げ花梨の実
秋天の虚空へ聳びゆ摩崖仏
吊橋の空次次と雁渡る
誌上句会 兼題「鮪」または「牡蠣」
触れ太鼓合図に鮪糶られけり 三枝子
牡蠣棚の並ぶ内海波しづか 由紀子
鮪寿司いつもの店で昼御飯 祐枝女
イベントの目玉の鮪解体ショー 洋子
牡蠣鍋の果てや熱熱うどん鍋 まこと
地芝居の玉三郎も牡蠣を剥く 研二
無事下りて牡蠣鍋囲む山仲間 惟之
焼牡蠣の香りと紫煙能登の浜 秀子
喉越しにつるりとすぎる志摩の牡蠣 靜風
鮪競る寿司屋の社長太つ腹 捨弘
長島の海のくれゆく牡蠣筏 よう子
牡蠣小屋の煙突薪の匂ひして 稔
大とろの舌にとけゆくにぎり寿司 博女
それぞれの好み語りて牡蠣の膳 靖子
神業の鮪解体小気味よし 珠子
骨のあること知らぬ子や鮪食ふ 古奈
手袋を汚し牡蠣剥く能登女 美智子
解体ショーが肴や角打ちす 秀穂
牡蠣殻の山と積まれて波の音 みどり
夕餉にちょっとはりこみ鮪買ふ 初枝
焼かれたる憤怒にがばと牡蠣の口 篤子
板前の手さばき見つつ鮪食ふ 美枝
免許返納の夫に慰労の鮪鮨 佳子
広島に義姉息災や牡蠣本番 啓子
鮪競る正念場や黒光り 章代
競り市のはちきれさうな鮪かな 真喜子
やまびこ(十二月作品から)感銘・共鳴ーー私の好きな一句
口を閉じ眼に力あり生身魂 勝彦
ハーブティー注ぎ新涼分ち合ふ 一江
かなかなや郷は地つづき空つづき 圧知
盂蘭盆会み仏に逢ひ友に逢ひ 幸子
朝の気を静かにのせて咲く桔梗 久女
おもひきり捨てる覚悟や鳳仙花 志津
時かけて暮れる湖法師蝉 和子
秋天へ昇る思いや本門寺 楙
髪洗ふ指先の知る古き傷 方城
揚花火闇を力にひらきけり みどり
科学者の煩悩如何に原爆忌 幸江
秋暑し断乳と言ふ試練かな 淳子
手を合はす箸の立つ粥終戦日 梟子
ちんちろりん一合の米研ぐときに 志津
終戦日逝きて帰らぬ兄ふたり きみ
悲しげに啼きし烏や終戦日 きみ
遺骨なき兵士の墓や法師蝉 鈴枝
一葉落つ島に人間魚雷の碑 爽見
世を少し覗きし孑孑沈みけり 素岳
自在とは言へず大暑の車椅子 ひさ子
敗者には敗者の礼儀汗滴る 隆を
忙しき妻に跨がれゐる昼寝 方城
狗尾草揺らし雀のかくれんぼ 洋子
梨割って分けあふ人の居ぬ夕餉 利里子
石一つ帰りて義父の敗戦忌 志保子
貧血のことはりもなく薮蚊かな アイ子
白桃や小さき嘘を秘めてをり ひさ女
懐メロの深夜放送明易し 秀峰
俳誌 嵯峨野 二月号(通巻第583号)より