石山寺の紅葉
大船鉾
山頂へ蟻の門渡り人の列 惟之
凱旋旗はためく取りの大船鉾
煌煌と火星接近夜の秋
響きの後の拍手や大花火
土器をみづうみに投げ秋にいる
兼題「月」
特選
鹿遊びくる月明りの音楽堂 肇
月光に崩れし古墳の吉備の山 京子
湖渡る三井の晩鐘盆の月 静風
暈かかる月端然と雲早し 啓子
明り窓に母の声きく良夜かな 敬子
秀作
十六夜や塔を要に吉備の里 みどり
災害の傷跡照らす月青し 弘子
宵月や櫓音の滑る瀬田の川 惟之
満月かざす腕や阿修羅仏 博女
母を抱き湯舟の月明り 睦美
月明や非常呼集の練習船 ともはる
空襲を一人眺めし月明り たかすけ
サハラの月駱駝の背のVサイン 胡蝶
まどかなる朝の月あり巌島 一江
再開を待つ月光のエアポート 洋子
人悼む心いだきて月の道 和子
月光に恥じぬ己を問うてみる 万智子
空耳に立ち上る夫月今宵 珠子
妻の歩のテンポの緩し月の道 仙命
病む友に月の姿を教へけり 三枝子
月昇り静かに月をひとり占め 近子
月浮かべ近江の湖の平らなる 捨弘
写経の手休めて仰ぐ月まどか 咲久子
子守唄の種の尽きたる星月夜 敦子
望月の光さし来る欅坂 信儀
やまびこ(十月号作品から)感銘・共鳴ー私の好きな一句
水を打つ石のほてりの消ゆるまで 惠弘
宿下駄のゆるき鼻緒や蛍の夜 ひさ子
実梅落つ己が重みを音にして 廣平
万緑に吸はれゆくかに寺詣 靖子
橋渡りきて薫風の母の里 東音
緑さす先師の句碑を排しけり 勝彦
老鶯に気配はなかりけり 海男
病んで知る家族の絆梅雨晴れる 道子
従兄弟らと余生持ち寄り川床料理 素岳
ほつほつと増ゆる里の灯新茶汲む 懋
夏の朝バス通りゆく若き医師 近子
亀鳴くや日記は愚痴の捨てどころ 方城
夏萩や老いても捨てぬこころざし みどり
息吸うて吐いて緑の限りなき 安恵
垂直にすする水稲夏の雲 睦美
樟脳の匂ひ取り出す更衣 研二
父の日や写真の父に頼みごと 美幸
俳誌 嵯峨野 十二月号(通巻第569号)より