朝の瀬田川(大津市稲津)
冴返る
ゴッホ展に茂吉のサイン冴返る 惟之
冴返る牢で綴らる紙縒り文字
ようお参りと白梅ふふむ弁財天
梅香る上七軒の芸舞妓
馬酔木咲く石塀小路に沓の音
誌上句会 兼題「春深し」
木木の香の深き里山春深し 仙命
古墳まで一本道や春深し 三枝子
千体の千の仏心春深し 一江
春深し昭和の匂ふ喫茶店 翠
石垣にシーサー阿吽春深む よう子
佐保川の水面の光春深し 清彦
船頭の声の嗄れをり春深し 京子
葬列に渡る鉦の音春深し 詔義
虚子百句繙く灯り春深し 咲久子
春深し多摩の遠峯のうす日和 清次
転宅を告げ来る友や春深し 初枝
春深し一茶の生活しかと読み 克水
ふんはりと海に入日や春深し 靖子
瀬田川に行き交う櫓音春深し 惟之
試歩いまだ上達遠し春深し 佳子
バス旅の土産選びや春深し 純代
阿弥陀さまの深き眼差し春深し 信儀
草履編む匠の里や春深し 万智子
建つと言う空地そのまま春深し 洋子
源平の歴史ひもとき春深し ひさ子
何事も決まらぬ齢春深し 捨弘
色濃き山川草木春深し 秀穂
礎石のみ残る城址や春深し 基雲
とりどりに壁の彩り春深し 梟
やまびこ(五月号作品から)感銘・共鳴ーー私の好きな一句
悔いのなき日日すごしたき初日記 恵弘
赤き実を残せる庭の初景色 貴志子
水もまた動かざるもの寒の鯉 爽見
冬日向猫の欠伸は背中から 邦弘
初雪の音なき音や猫眠る 百合香
枇杷の花村の放送聞きとれず 志津
治まらぬ奥歯の痛み冬の夜 志津
万象に影の生まるる初明かり 素岳
風神も加はりどんと囃しけり 素岳
一月の水に重さのありにけり 清次
母の年越えてつくづく初鏡 敏子
我卒寿吾子還暦や千代の春 節子
初春や青年すつと席ゆづる 陽子
俳誌 嵯峨野 七月号(通巻第564号)より